BRD制震装置を用いた新設長大斜張橋の経済的な耐震設計

長大斜張橋の基礎,橋脚,主塔はレベル2地震においても弾性範囲で設計することが

望ましい。塑性化させると残留変形が発生し,修復は著しく困難になるからです。

ただし,弾性範囲で設計すると基礎,橋脚,主塔の断面は大きくなり不経済となります。

図-1の拡大部は図-2のようになります。

ct1

        図-1 長大斜張橋の弾性設計イメージ

   ct2

図-2 長大斜張橋の弾性設計イメージ拡大図

そこでBRD制震装置を図-3のように取り付けると,地震応答変形が抑制され,発生断面力が
小さくなります。基礎,橋脚,主塔断面は小さくなり大幅なコスト縮減が可能です。
設計はもちろん弾性範囲です。BRD制震装置はレベル2地震が作用した時に座屈拘束低降伏点鋼
圧縮または引張応力で降伏して橋脚の振動にブレーキをかけます。
ただし常時,レベル1地震時ではスライド装置があるため座屈拘束低降伏点鋼には荷重が作用しません。


ct3

        図-3 長大斜張橋にBRDダンパーを取り付けたイメージ

BRD制震装置については
一般社団法人 日本建設機械施工協会 施工技術総合研究所
「座屈拘束型ダンパーガイドライン委員会運営業務報告書(平成29年4月)」

に詳しく記載されております。

斜張橋のような卓越振動数が複数ある橋梁では粘性ダンパーでは減衰定数に振動数依存性があるので
複数の卓越振動数に対して減衰効果が期待できません。

座屈拘束低降伏点鋼は減衰定数に振動数依存性がないのでどのような卓越振動数を有する地震動に対しても
高い減衰効果を発揮できます。

BRD制震装置は鋼製品であり粘性ダンパーに比べて耐久性が格段に高いです。

低降伏点鋼は、図-4に示すように通常の鋼材に比べ 降伏点が低く,降伏点のばらつきが小さい上,
伸び性能に優れています。

低降伏点鋼LY225とSS400の応力-ひずみ関係は図-4のようになります。

LY225は、応力値205~245N/mmの範囲内で必ず降伏するように上限降伏強度が規定されていますので,
BRDの取り付け部に想定外の力が作用することなく,取付け部が破損することはありません。

ct4

     図-4 LY225とSS400の応力-ひずみ関係

座屈拘束低降伏点鋼は図-5に示すように低降伏点鋼に圧縮力が作用しても座屈しないようにした製品です。
座屈拘束低降伏点鋼が降伏することにより地震応答を熱エネルギーに変換することにより橋梁の振動を
抑制します。座屈拘束低降伏点鋼の等価減衰定数は55%程度で大きな減衰力を有します。
ちなみに鉛プラグ入り支承の等価減衰定数は15%程度です。

座屈拘束低降伏点鋼は降伏ひずみが大きいほど少ない繰返し回数で疲労破壊します。

メーカーにより繰返し回数に応じて許容ひずみが設定されていますので地震応答解析でBRD制震装置の
最適な断面設定, 基数を設定します。


ct5

      図-5 座屈拘束低降伏点鋼の仕組み

座屈拘束低降伏点鋼は図-6に示すように引張,圧縮とも同様な軸力-軸方向変位

特性を有しています。
ct6

図-6 座屈拘束低降伏点鋼の軸力-軸方向変位履歴曲線

BRD制震装置の挙動と対応する履歴モデルは図-7のようです。座屈拘束低降伏点鋼は橋脚側にスライド装置は
桁側についているとします。バネのマークは緩衝材です。

Aは静止状態です。レベル2地震動が発生し桁が右方向に移動しますとBで座屈拘束低降伏点鋼に引張応力が作用します。
降伏点Pyで降伏しCになります。応答は交番しますので桁は左方向に戻りはじめDになります。
このとき座屈拘束低降伏点鋼には残留変形が発生します。履歴図でBDです。Dからストロークsだけ桁が左に移動した時Eで
座屈拘束低降伏点鋼に圧縮応力が作用し始め同様な経過をたどります。
この履歴モデルを用いた時刻歴応答解析プログラムは開発されております。


ct7

                         図-7 BRDの挙動と対応する履歴モデル

レベル2地震動が終了したのちには座屈拘束低降伏点鋼には残留変形が生じますが,スライド装置で吸収されますので,
斜張橋の主塔,橋脚及び基礎は弾性変形が維持されますので,残留変形は発生せずレベル2地震の前の状態に戻ります。