①波形鋼板巻立て工法ではなぜせん断耐力が向上するか

1)大きなせん断耐力
図-1に示すように鋼板を折り曲げて波形にしたものを波形鋼板と呼びます。
折り目方向の荷重に対しては板厚は同一でも波形鋼板は鋼板よりも大きな荷重に耐える
ことができます。鋼板は座屈するからです。これを波形鋼板はせん断耐力が大きいと言います。
この特質はコンテナや空港のボーディング・ブリッジにも利用されています。


2)アコーデオン効果
他方,折り目直角方向の荷重に対してはほとんど無抵抗であることが、
実験的に確認されています。つまり鋼板より小さな荷重で変形します。
これをアコーデオン効果といいます。

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                       図-1 鋼板と波形鋼板 


波形鋼板の1),2)の特徴は直交異方性板と言われます。
直交異方性板の力学的挙動はEasleyの式が用いられます。
以下のリンクをご覧ください。

Easleyの式

3)KD巻立て工法

図-2に示すように波形鋼板の折り目方向を水平方向にして橋脚周囲に巻き立てれば地震時水平力に対しては
せん断耐力が増加しますので耐震補強ができます。
また橋脚の曲げ変形に対してはアコーデオン効果によりほとんど抵抗はなく基礎にかかるモーメントも
増加しませんので曲げモーメントの増加に対して基礎を補強する必要はありません。

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                    図-2 KD巻立て工法


4)KD巻立て工法と炭素繊維シート接着工法の比較

参考文献1)によれば炭素繊維シート接着工法の断面図は図-3のとおりです。

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         図-3 炭素繊維シート接着工法の断面図

炭素繊維接着工法では既設コンクリート構造物と繊維シートの接着力が十分でないと
せん断ひび割れを防ぐことはできません。
接着力は異形せん断鉄筋の付着力に相当するものです。
耐震補強する既設コンクリート構造物は中性化による鉄筋の発錆などで経年劣化している
可能性があり、繊維シートとの十分な付着力を期待できない可能性があります。
また接着剤の経年劣化も付着力が低減する可能性があります。
参考文献1)には炭素繊維接着工法における付着力の劣化事例が多数報告されています。
これに対して波形鋼板巻立て工法は既設コンクリートとの付着力を必要としないため
このような問題は発生しません。

参考文献
1) 北海道における繊維シート接着コンクリートの変状調査
内藤 勲, 田口 史雄,, 野々村 佳哲  ,寒地土木研究所月報 No.692 2011年1月